桃太郎さん、桃太郎さんは
はずかしそうに言ったよ
腰につけたキビダンゴをひとつくれないかと、
もちかけられたんだ
それでオニガシマニに付いて行くからってね
断ればハタでもハチマキでもくれと迫られたろうな
つまり、付いて行くほうも、連れて行くほうも
ちょっとしたゲームだって承知づくなんだ
―承知というと?
ゲームというのは駆け引きでしょう?
ゲームを楽しみたいなら
むりからでも駆け引き……
このゲーム的な状況を発生させなきゃいけない
これをお互い承知づくでやるのがゲームなんだからね。
巨人の国ではイヌが巨人に捕まった
オニとたたかうつもりではいたが、これは少々分が悪い
たいへんだ桃太郎さん
どうにかイヌを助けなきゃ
いいじゃない、いいじゃない
この街にも桃がある
巨人も桃を食べるのかな
いいじゃない、食べるんだったらいいじゃない
どんなに世界が違っても
桃を食べればいいじゃない
ムシャリ ムシャリ ムシャア
桃太郎さん、桃太郎さんは
桃の木を抱きしめて
桃のくちづけ優しくいちど
オニガシマを目指し旅に出た
小人の国ではサルが小人に捕まった
小人の軍隊サルをつかって敵の国を滅ばした
たいへんだ桃太郎さん
はやいとこサルを助けなきゃ
いいじゃない、いいじゃない
この街にも桃がある
桃を食べればいいじゃない
小人は桃を食べるのかな
いいじゃない、桃を食べればいいじゃない
どんなに世界が広くても
桃を食べれはいいじゃない
クシャリ クシャリ クシャア
桃太郎さん、桃太郎さんは
桃の木を抱きしめて
桃のホオズリせつなくいちど
オニガシマを目指し旅に出た
イヌが巨人の国から逃げ出してきました
空飛ぶラピュタではキジが伝説のゴチソウ
狙われたキジは雲隠れ、誰もその姿を見ない
たいへんだ桃太郎さん
キジがいないと何かと困る
いいじゃない、いいじゃない
この街にも桃がある
桃があるならいいじゃない
ほら、桃は笑わないでしょう
いいじゃない、笑わなくてもいいじゃない
例えばお腹がすいたとき
桃を食べれはいいじゃない
スソリ スソリ スシャア
桃太郎さん、桃太郎さんは
桃の木に耳を寄せて
内緒の話をしばらくしていた
サルまだ還らぬ、オニガシマにもたどりつかず
そしてこの街には桃が一本もない
桃太郎さん、桃太郎さんは
死に物狂いで探したけれど
ついに叫んだ
勝手にしやがれ
息も絶え絶え叫び叫んだ
桃がない、
この街には桃がない
桃がない街なんて用ナシだろうに
桃太郎もここまでだ
名も無いことは無力なれ
オレの本当の名前は桃太郎なんかじゃない
オレに名前をつけてくれ
サルよ見えるかこのオレが
おまえを小人の国に置き去りにしてまで旅を続けた
あの後お前を忘れてさえいた
なのにおかしいじゃないか
ただ桃がないだけで
オレはお前を頼りにしている
どうすればいい、まだ探したりないのか
キジよ震えているんだろう
食べられてしまうのは怖いかい
オレだって怖い
なりふり構わず怯えているよ
だけど気づいたんだ、たった今
オレはお前がうらやましい
キジよお前の名前はなんだ?
時々わけがわからなくなる
オニガシマなんてなにかの錯覚だ
オレは桃から産まれた
桃から産まれた桃の子太郎だ
名も無いことは無力なれ
オレに名前をつけてくれ
サルよキジよ
イヌよオニガシマのオニ
名前のつけかたを知っているひと
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